家賃滞納の賃借人が退去しないときの対応と明渡しの手順

COLUMN / 建物明渡し・立退き(貸主側)

家賃滞納の賃借人が退去しないときの対応と明渡しの手順

家賃の滞納などを理由に契約解除を通知したのに、賃借人が出て行かない。話し合いにも応じてもらえない。ここから先、貸主・管理会社は何を、どの順で進めればよいのか。任意の交渉から、明渡し訴訟、判決後の強制執行まで、退去しない相手への進め方を順に見ていきます。

この記事が扱うのは、家賃の滞納など賃借人の側の落ち度を理由に、契約解除の通知までしたのに、賃借人が退去しない場面です。明渡しを求めても話し合いに応じず、あるいは連絡そのものがつかない。解除の通知は出した。それなのに、そこから先へ進めなくなってしまうことがあります。

先に、話の骨格をお伝えします。滞納を理由に解除の通知をしても、賃借人が任意に退去しなければ、それだけで建物が戻ってくるわけではありません。かといって、鍵を替えて締め出す、荷物を運び出すといった、貸主自身の判断による退去の強制は、相手に滞納などの非があっても原則として許されません。

任意の明渡しが得られないときは、明渡し訴訟などの手続で、確定した判決や仮執行宣言付きの判決、和解調書といった債務名義を得たうえで、なお任意の明渡しがなければ、強制執行によって明渡しを実現します。全体の順序は、まず解除の通知、次に任意の明渡し交渉、決まらなければ明渡し訴訟(解除が有効で契約が終わったといえるかどうか自体も、ここで審理されます)、判決や和解、最後に強制執行、という流れです。

どこで決着するかで、かかる時間も費用も変わります。この記事では、退去しない相手への進め方を、段階を追って見ていきます。

解除通知と明渡しの実現は別の段階

まず押さえておきたいのは、契約を解除できたことと、賃借人に建物を明け渡させられることは、別だという点です。賃料の滞納を理由に解除が有効に効いた場合でも、賃借人が任意に退去しなければ、そこで自動的に建物が戻ってくるわけではありません。相手に落ち度があることと、建物が戻ってくることは、別々の話です。

契約が終了すると、賃借人は建物を貸主に返す義務を負います(民法601条)。ただ、この返還義務を相手が果たさないとき、貸主が実力で退去させることはできません。

権利の強制的な実現は、裁判所の手続を通じて行うのが原則です。任意に明け渡さない相手に対しては、明渡しを命じる確定判決や仮執行宣言付きの判決、和解調書といった債務名義を取得し、それでも退去がなければ強制執行で明渡しを実現する、という順序をたどります。解除通知を送れば、あとは待っていれば出て行く、というわけにはいきません。

なお、賃料の滞納で解除できるかどうか、催告が要るのか無催告でよいのか、といった解除そのものの判断は、別の解説にゆずります。この記事は、解除の通知をした後、退去しない相手にどう進めるかに絞ります。

賃借人に落ち度がなく、期間が満了したので契約を終わらせたい、という場面は、この記事の対象外です。その場合は「更新拒絶と正当事由」をご覧ください。

解除通知から明渡し実現までの流れ

退去しない賃借人への対応は、次の段階を順にたどります。まず全体を一覧で見ておいてください。

段階進め方押さえておく点
① 解除の通知と有効性の見通し催告の要否など解除の要件を満たしているか、解除の意思表示が相手に届いているかを確認する滞納があれば当然に終わるわけではない。解除の有効性が争われれば、最終的には明渡し訴訟で裁判所が判断する
② 任意の明渡し交渉明渡しの期限・残置物・原状回復・未払金の扱いを合意書にまとめる合意どおり任意に明渡しが実現すれば、訴訟・強制執行は不要になる
③ 明渡し訴訟建物明渡しと未払賃料・賃料相当損害金を求めて提訴。占有者が入れ替わるおそれがあれば占有移転禁止の仮処分を検討訴訟の中で和解により退去が決まることもある
④ 判決・和解確定判決のほか、仮執行宣言付き判決・和解調書なども強制執行の根拠(債務名義)になる債務名義を得ても、貸主が自分で追い出すことはできない
⑤ 強制執行執行官が賃借人の占有を解いて明渡しを実現する(民事執行法168条)明渡しの催告、断行予定日、断行の順。費用・流れは別途

一つ補足すると、滞納が生じただけで、当然に解除できるわけではありません。

  • 賃料の滞納を理由に解除するには、原則として相当の期間を定めて支払を催告し、その期間内に支払がないことが前提になります(民法541条)。
  • そのうえで、滞納の額や期間、それまでの経緯から、賃貸借を続けられないほど当事者の信頼関係が壊れていると評価できるかが問われます。
  • 解除の意思表示が相手に到達しているかどうかも、後になって争点になることがあります。

解除の有効性に不安があると、解除を前提とする明渡し訴訟の見通しは不安定になります。他方、任意交渉では、解除の有効性に争いがあっても、合意解約と明渡しの条件を定めて解決できる場合があります。いずれにしても、進め方を考える前に、解除が裁判所で認められる見通しを検討しておく必要があります。

まずは任意の明渡し交渉

事情に応じて訴訟や保全の手続も見据えながら、まずは任意に退去してもらえないかの話し合いを検討します。相手にも事情があり、退去の時期さえ折り合えば任意に明け渡すというケースもあります。

任意の合意で明渡しが実現すれば、訴訟や強制執行の手続そのものが不要になります。かかる期間や費用は、交渉の中身しだいです。

実務で貸主の方にお伝えするのは、早期に合意が成立し、期限どおりに明渡しが実行されれば、訴訟や強制執行に進むより期間も費用も抑えやすい、ということです。

この種の案件のポイントは、いかに訴訟や強制執行まで進めずに、早期の交渉で解決するかです。そのために、貸主の側から一定の譲歩を示すことが有効です。たとえば、倍額の損害金の一部を求めない、滞納賃料の支払いを一部免除する、といった形です。訴訟や強制執行まで進めば、費用と時間がかかります。争っている間、建物は塞がったままで、新しい賃借人に貸せていれば入ったはずの賃料も戻ってきません。判決で満額の支払いを命じてもらえたとしても、家賃を払えなくなっている相手から現実に回収できるとは限りません。一見、損をするようでも、適切な譲歩が早期の解決につながれば、最終的には総損失を抑えられることがあります。譲歩をする場合も、先に免除を確定させるのではなく、期限どおりの明渡しが完了することと引換えにする形にします。ただし、こうした合理的な提案が、相手に響かないこともあります。応じる気のない相手との交渉を引き延ばすより、早めに見切りをつけて訴訟に進んだほうが、かえって早く決着することもあります。譲歩でまとめにいくか、見切って訴訟へ進むか。ここの見極めが大事なところです。

ただし、交渉が長引くと、占有者が入れ替わったり未払いが増えたりすることもあります。占有が移るおそれがあるようなときは、交渉と並行して、あるいは先行して、保全や訴訟の手続も検討します。

ではなぜ相手が動くのかというと、応じなかった場合に自分の側に何が起きるかが見えたときです。

  • 契約が有効に終了した後も明渡しがされない場合、契約の条項や占有の状況に応じて、明渡しまでの賃料相当損害金を請求されることがあります
  • 合意に至らなければ明渡し訴訟に進み、明渡しを命じる債務名義を得た後も退去がなければ、強制執行に進むことになります

相手にとっての「応じなかった場合の行き先」がそこだと分かってはじめて、交渉の条件が現実味を持ちます。

だからこそ、こちら側が訴訟・執行という次の一手を実際に取れる状態を整えておくことが、任意交渉の土台になります。示された条件をのむかどうかではなく、進めない場合に双方が負う時間と費用を見比べて、どこで折り合うかを考える、という順番です。

任意の交渉でまとめるときは、口約束で終わらせず、合意の内容を書面(合意書)に残しておくのが安全です。決めておきたいのは、次のような点です。

  • いつまでに明け渡すか(明渡しの期限)
  • 室内に残った荷物(残置物)をどう扱うか
  • 原状回復や未払賃料の精算をどうするか
  • 退去が守られなかったときにどうするか

ここを曖昧にすると、いったん話がまとまっても、後で蒸し返されて振り出しに戻ることがあります。ただし、当事者どうしで交わした合意書は、退去の条件を記録するものであって、相手がそれを守らなかったときに、その合意書だけで直ちに強制執行ができるわけではありません。

合意した退去を強制執行で実現するには、確定判決や仮執行宣言付きの判決、裁判上の和解を記した和解調書などの債務名義が必要になります(民事執行法22条)。私的な合意書と、強制執行の根拠になる債務名義とは、別のものだと分けて考えておく必要があります。

もっとも、明渡し訴訟をあらためて起こすほかに道がないわけではありません。履行の確保が必要な場合には、相手方が手続に応じ、裁判所で合意が成立すれば、訴え提起前の和解や民事調停を利用して、和解調書・調停調書という債務名義を得ておく方法もあります。

相手方との交渉では、相手が退去に難色を示すようなときには、交渉が決裂した場合に次にどうなるかを、必要に応じて示します。次はどの手続へ進むのか。解除が有効と認められ、明渡しを命じる債務名義を得てもなお退去しなければ、最終的には強制執行による退去まで進み得ること。そして、退去が延びれば、その間の賃料相当損害金が請求の対象になり、ただで住み続けられるわけではないこと。契約書に損害金を賃料の倍額とする定めがあれば、その特約に基づく請求により、負担はさらに重くなり得ること。ここまでを、具体的に示します。

この先に何が起きるかがはっきり見えたときに、はじめて相手の中で「いま退去する」ことが検討に値する選択肢になります。逆に、この先どうなるかを示さないまま催促だけを重ねても、状況は動かないことがあります。

話し合いで決まらないときの明渡し訴訟

任意の交渉で退去が実現しないときは、明渡しを求める訴訟を起こします。求めるのは、建物の明渡しに加えて、未払いの賃料と、契約が終わった後も明渡しまで占有が続いた期間についての賃料相当の損害金です。未払賃料については、法定利率による遅延損害金も請求の対象になります。契約に利率の定めがあれば、その定めの適用もあわせて検討します。

賃貸借契約が終了したことに基づいて建物の返還を求める、というのが訴訟での組み立ての中心になります。裁判所は、滞納を理由とする解除がいつ、どのように効いたのかを審理して、明渡しを命じるかどうかを判断します。訴訟に進んでも、途中で裁判上の和解が成立し、退去の時期を定めて解決に至ることもあります。

連絡がつかない相手でも、提訴を検討できます。ただ、訴訟を進めるには、被告となる相手とその所在を確かめたうえで、訴状等が適法に送達される必要があるため、相手の所在や実際の占有者に不明な点があるときは、現地の状況確認など適法な調査により、誰が建物を占有・使用しているのかを確かめるところから始めます。

このとき、無断で室内に立ち入ったり郵便物を開封したりはせず、外から確認できる範囲の状況や、適法に取得できる公的資料、関係者への照会などによって、占有と所在を調べます。

通常の方法で送達ができないときは、所在の調査を尽くしたうえで、公示送達を含む送達の方法を裁判所と検討します。ここで得た事実は、その検討にも、次に述べる占有移転禁止の仮処分の要否にもつながります。

占有者の入れ替わりと占有移転禁止の仮処分

明渡し訴訟で気をつけたいのが、訴訟の途中で建物の占有者が入れ替わってしまう場面です。賃借人以外の人が住み始めたり、賃借人が第三者に建物を使わせたりすると、賃借人に対する勝訴判決を得ても、いま住んでいる人にそのまま強制執行できるとは限りません。

このリスクに備える手続が、占有移転禁止の仮処分です。あらかじめ仮処分を執行しておくと、その後に占有した人のうち法律の定める範囲の者、たとえば仮処分の執行を知って占有した者や、賃借人から占有を引き継いだ者などに対しても、賃借人に対する債務名義に基づいて明渡しの強制執行ができるようになります(民事保全法62条)。

仮処分は提訴後に順番として行うものと決まっているわけではなく、占有が移るおそれがあれば、提訴の前や提訴と並行して検討します。すべての事案で必須というわけではなく、裁判所の定める担保を立てる必要がある場合もあります。

実務で仮処分を検討するのは、こうした事情が見えたときです。

  • 賃借人以外の人が出入りしている気配がある
  • 賃借人が別の場所に住んでいるらしい
  • 店舗で誰が営業しているのかはっきりしない

逆に、賃借人本人が住んでいることが確認できていて、第三者が入る気配もなければ、仮処分の必要性は相対的に下がります。要否は事案ごとの判断です。

賃料相当損害金の請求と回収の見通し

回収の面では、未払賃料に加えて、契約が終わった後も明渡しまで賃借人が建物を占有していた期間について、従前の賃料額を一つの基準として、賃料相当の損害金の請求を検討します。金額や法的な構成は、契約の条項や使用の状況によって変わることがあります。これらは明渡し訴訟の中で、建物明渡しとあわせて求めます。

実務では、契約書に、明渡しまでの損害金を賃料の倍額とする定めが置かれていることが多く、その場合は、その特約に基づく請求を検討します。

ただし、請求できることと、現実に回収できることは別です。相手に資力がなければ、判決を得ても回収は難しく、費用倒れになることもあります。

連帯保証人や家賃保証会社が付いていれば、保証の対象・極度額・保証期間を確認したうえで、そちらへの請求もあわせて考えますが、いずれにせよ、金銭の回収は、明渡しとは別に見通しを立てておく必要があります。

少額訴訟や支払督促で明渡しはできるのか

退去を早めたいという思いから、少額訴訟や支払督促で明渡しまでできないか、と考える方もいます。ですが、少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いを求めるための手続で(民事訴訟法368条)、支払督促も、金銭その他の代替物などの給付を求めるための手続です。

いずれも建物の明渡しそのものを命じてもらう手続ではありません。建物を明け渡させるには、通常の明渡し訴訟によることになります。

判決後も退去しないときの強制執行

強制執行の根拠になるのは、確定した勝訴判決だけではありません。仮執行宣言付きの判決や裁判上の和解調書も債務名義となり(民事執行法22条)、仮執行宣言が付いていれば、判決の確定を待たずに執行できる場合もあります。

こうした債務名義を得てもなお賃借人が任意に明け渡さないときに、強制執行の段階に入ります。

建物明渡しの強制執行は、執行官が賃借人の占有を解いて、貸主にその占有を取得させる方法で行われます(民事執行法168条)。ここでも、貸主が独断で施錠を替えたり家財を運び出すのではなく、裁判所の手続として進みます。

強制執行の具体的な流れ、明渡しの催告から断行までの進み方や、かかる費用の目安は「建物明渡しの強制執行の流れと費用」で取り上げています。

鍵交換や締め出しが認められない理由

退去しない相手を前にすると、いっそ鍵を替えて入れないようにしたい、荷物を出してしまいたい、という気持ちになるかもしれません。ですが、相手に滞納などの非があっても、貸主自身の判断で退去を強制する対応、つまり次のような対応は、原則として許されません

  • 鍵の交換
  • 締め出し
  • 室内の荷物の搬出

裁判所の手続によらず自分の実力で権利を実現しようとする行為(自力救済)にあたり、違法と評価されて、賃借人から損害賠償を求められるおそれがあります。実際にこじれると、明渡しを求めていた側が損害賠償を請求される立場に回ってしまい、本来の目的だった退去がかえって遠のきます。

契約書に「滞納したら鍵を替えられる」といった趣旨の特約があっても、その一事でこうした行為が当然に許されるわけではありません。

滞納の事実を人目にさらすような貼り紙や、退去を強いる目的で貸主側が電気・水道などを止める行為も、態様によっては同じく違法と評価されるおそれがあります(単なる連絡依頼の掲示まで一律に違法となるわけではありません)。

任意の明渡しが得られないときの退去は、これまで見てきた訴訟と強制執行という手続を通じて実現します。

費用と期間の見通し

「明渡しまで、どれくらいの時間と費用がかかるのか」は当然気になるところですが、これは事案によって大きく異なり、一律の金額や期間を示すことはできません。

どの段階で決着するかによって、見通しは大きく変わります。

そしてもう一つ、見通しを大きく左右するのが、解除が裁判所で認められる見通しです。貸主が解除したと考えていても、契約が終わったといえるかどうかは、争いになれば裁判所が判断します。滞納の期間や経過からみて、解除が認められることに争いの余地がほとんどない事案であれば、訴訟での争点が絞られ、決着までの道筋も立てやすくなります。逆に、解除が認められるかどうかに不安が残る事案では、そこ自体が争点になり、時間も費用も膨らみます。

訴訟に進めば、送達の状況、争点、相手の対応、裁判所の進行しだいで期間は延びます。判決後も退去せず強制執行に至れば、執行の手続や動産の搬出・保管に、さらに時間と実費がかかります。裁判所に納める費用や執行の実費は事案ごとに異なり、弁護士費用も対応範囲によって変わります。

見通しをご説明するときに必ず確認するのは、契約書、賃料の入金記録、解除や催促に関するやりとりの3点です。この3点がそろうと、解除が認められる見込みを含めて、期間と費用の見通しを具体的に検討できます。お問い合わせの前にこれらをお手元にまとめておいていただくと、初回から、具体的な事情を踏まえて見通しを検討しやすくなります。

よくある質問

Q. 解除通知を送れば、あとは待っていれば出て行ってもらえるのですか。

そうはいきません。解除の通知をしても、賃借人が退去しないかぎり、建物は自動的には戻ってきません。退去してもらうには、明渡しを命じる判決や和解調書を取得し、それでも動かなければ強制執行まで進む、という手続を踏むことになります。

Q. 賃借人と連絡がつかない場合も、明渡し訴訟を起こせますか。

起こせます。連絡が取れないこと自体が、訴訟を妨げるわけではありません。ただ、手続を進めるには、相手の特定と所在の確認を経て、訴状が適法に送達される必要があります。通常の方法で送達ができない場合も、所在の調査を尽くしたうえで、公示送達などの方法を裁判所と検討する道があります。その前提として、建物を実際に誰が占有・使用しているのかを現地で確かめ、占有の実態を押さえるところから始めます。

Q. 当事者どうしで作った合意書があれば、強制執行できますか。

できません。当事者どうしの合意書は退去の条件を記録するものにとどまり、それだけを根拠に強制執行をすることはできません。強制執行の根拠になるのは、確定判決や仮執行宣言付きの判決、裁判上の和解調書といった債務名義です(民事執行法22条)。

RELATED

家賃滞納の賃借人への対応の全体像は、建物明渡し・立退き(貸主側)のページで、催促から強制執行までの流れとともにまとめています。賃借人に落ち度がなく、期間満了で契約を終わらせたい場合は、更新拒絶と正当事由をあわせてご覧ください。

主要な根拠

  • 契約が終了すると、賃借人は引渡しを受けた建物を貸主に返す義務を負うこと(民法601条)… 民法第601条(e-Gov法令検索) 契約が終われば建物を返す義務が生じる、という出発点を定めた条文です。返す義務があることと、貸主が実力で退去させられることとは、同じではありません。
    第601条「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」
  • 債務の履行がないときの解除には、原則として相当の期間を定めた催告と、その期間内に履行がないことが必要であること(民法541条)… 民法第541条(e-Gov法令検索) 賃料の滞納を理由に契約を終わらせる場面で、出発点になる条文です。催告を経ずに解除できるかどうかは、事案ごとの検討になります。
    第541条「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」
  • 強制執行の根拠となる債務名義には、確定判決のほか仮執行宣言付き判決・和解調書等も含まれること(民事執行法22条)… 民事執行法第22条(e-Gov法令検索) 強制執行に入るには、ここに挙げられた書面のどれかを持っている必要があります。当事者どうしの合意書はこの一覧に入りません。
    第22条「強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。一 確定判決 二 仮執行の宣言を付した判決 …… 七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)」(裁判上の和解を記した和解調書は七号にあたります。)
  • 建物明渡しの強制執行は、執行官が賃借人の占有を解いて貸主に占有を取得させる方法によること(民事執行法168条)… 民事執行法第168条(e-Gov法令検索) 現実に退去させるのは執行官の手続であって、貸主自身が行うものではない、という根拠になる条文です。
    第168条第1項「不動産等……の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。」
  • 占有移転禁止の仮処分の執行後は、法律の定める範囲の占有者に対し、本案の債務名義で明渡しの強制執行ができること(民事保全法62条)… 民事保全法第62条(e-Gov法令検索) 先に仮処分を打っておけば、後から入った人にも賃借人相手の判決で執行できる範囲が生まれます。効力が及ぶ相手は、ここに書かれた範囲に限られます。
    第62条第1項「占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義に基づき、次に掲げる者に対し、係争物の引渡し又は明渡しの強制執行をすることができる。一 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って当該係争物を占有した者 二 ……債務者の占有を承継した者」
  • 支払督促は金銭その他の代替物等の給付請求に限られ、建物の明渡しには使えないこと(民事訴訟法382条)… 民事訴訟法第382条(e-Gov法令検索) 支払督促の対象は金銭等の請求に限られており、建物を明け渡させる命令は含まれていません。
    第382条「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。」
  • 少額訴訟は60万円以下の金銭の支払請求の手続で、建物の明渡しには使えないこと(民事訴訟法368条)… 民事訴訟法第368条(e-Gov法令検索) 条文が対象としているのは金銭の支払請求だけで、建物を明け渡させる命令は含まれていません。
    第368条第1項「簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。」

CONTACT

退去しない賃借人についてのご相談

任意交渉で詰められる余地があるうちに手を打ち、合意が成立して期限どおり履行されれば、訴訟や強制執行を経ずに済み、期間と費用の負担を抑えられる可能性があります(占有が移るおそれなどがある事案では、交渉と並行して保全・訴訟を進めます)。

たとえば、次のような手詰まりが起きているなら、進め方の見通しを立てるところからご一緒できます。

  • 滞納を理由に解除を通知したのに、賃借人が退去せず話し合いにも応じない
  • 賃借人と連絡がつかない、あるいは別の人が住み始めている
  • 明渡し訴訟に進むか、その前に占有移転禁止の仮処分が要るか迷っている
  • 鍵の交換や締め出しなど、自分で対処してよいか迷っている

初回のご相談では、いま任意交渉で詰められる余地があるか、訴訟に進むならどの請求を立てるか、占有者が入れ替わるおそれから仮処分を検討すべきか、といった見立てをご一緒に確認します。契約書と賃料の入金記録、解除通知や催促に関するやりとりが分かるものをお持ちいただけると、初回から具体的な事情を踏まえて検討できます。

お問い合わせ
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

弁護士

目次