立退料はどう決まるのか

COLUMN / 立退料・明渡し(貸主・借主)

立退料はどう決まるのか

立退料には、法律で決まった相場も、当てはめれば答えの出る計算式もありません。金額が何によって動くのか、そもそもどういう場面で問題になるのかを、貸主・借主の双方に向けて順番に見ていきます。

立退料はいくらもらえるのか、いくら払えばよいのか。まず気になるのは、たいていこの金額でしょう。ネットを見れば「相場は賃料の◯か月分」「◯◯万円が目安」といった数字も並んでいます。けれど、立退料に法律で決まった相場はなく、当てはめれば答えの出るような一律の計算式もありません。金額は、貸主と借主それぞれの事情、建物の状況、移転にかかる費用などを合わせて、ケースごとに決まっていきます。だから数字から入ると、かえって見立てを誤ります。

もう一つ、金額の前に押さえておきたいことがあります。立退料が問題になるのは、貸主側の都合で借主に出ていってもらう場面のお金だ、という点です。借地借家法は、こうした明渡しに「正当事由」を求めていて、立退料はその正当事由を補うものと位置づけています(借地借家法28条)。

ですから、立退料を払えば必ず明渡しが実現するわけではありませんし、逆に、貸主側の事情が十分に強ければ、立退料が低く済んだり、不要になったりすることもあります。両者は補い合う関係にあります。

金額の見当をつける前に押さえておきたい点を、順を追って見ていきます。

立退料が問題になる場面とならない場面

立退料が法的に問題になる場面は、限られています。中心にあるのは、契約期間が満了するときに貸主が「更新はしない」と通知する更新拒絶と、期間の定めのない契約で貸主が「解約する」と申し入れる解約申入れです。建替えや自己使用、再開発といった貸主側の事情で、借主に落ち度がないのに出ていってもらう、というケースがこれにあたります。

借地借家法は、こうした貸主からの更新拒絶・解約申入れに「正当事由」を求めています(借地借家法26条・27条・28条)。そして、正当事由があるかどうかを判断する材料の一つとして、明渡しの条件として、または明渡しと引換えに借主へ財産上の給付をする旨の申出、つまり立退料の申出を挙げています(同法28条)。立退料が顔を出すのは、この正当事由の土俵の上です。

逆に、賃料の滞納など借主側の契約違反(債務不履行)を理由とする解除が有効に成立する場面では、立退料は基本的に問題になりません。

もっとも、契約違反があれば直ちに解除できるわけではなく、違反の程度や経緯に照らして、貸主と借主の信頼関係が壊れたといえるかどうかが問われます。次の二つは、別の話だからです。

  • 落ち度のある借主に出ていってもらう解除
  • 落ち度のない借主に貸主都合で出ていってもらう更新拒絶・解約申入れ

取り違えると、払う必要のない場面で払う話を始めたり、逆に受け取れる場面を見落としたりしかねません。まだ返事をしていない段階での確認の順序は「立退きの返事前に確認すること」で、借主・テナントの立場から書いています。

なお、定期借家(定期建物賃貸借。借地借家法38条)として有効に成立した契約であれば、期間の満了で更新なく終了するため、正当事由や立退料という仕組みは基本的に働きません。

ただし、定期借家が有効であるには、書面等による契約に加えて、更新がなく期間満了で終了する旨の事前の説明など、法律の定める要件を満たしている必要があります。契約書に「定期借家」と書いてあるかどうかだけでなく、また、期間が1年以上の定期借家では、貸主が期間満了の1年前から6か月前までに「期間満了で終了する」旨の通知をしなければ、期間満了での終了を借主に主張できません(借地借家法38条6項)。

これらの要件が満たされているかも含めて、自分の契約の前提を確認しておいてください。

立退料と正当事由は補い合う

正当事由は、賃貸借を終わらせて明渡しを認めることが、社会通念に照らして妥当といえるかどうかで判断されます。見られるのは、次の点です。

  • 貸主と借主の双方が建物を使う必要性(中心となる要素)
  • これまでの契約の経過
  • 建物の利用状況や現況
  • 立退料の申出

これらを総合して、正当事由の有無が判断されます(借地借家法28条)。

そのなかで立退料が担うのは「補い」です。貸主側の事情だけでは正当事由が完全とはいえないけれど、一定程度までは認められる。そういうときに、借主が受ける経済的な不利益を和らげ、足りない分を補ってはじめて正当事由が認められる、という働きをします。だから、立退料さえ払えば当然に明け渡させられる、というものではありません

最高裁も、立退料の提供だけで正当事由が決まるのではなく、他の事情と総合して考慮され、互いに補い合う関係にあるとしています(最高裁昭和46年11月25日判決)。貸主側・借主側の使用の必要性、契約の経緯、建物の状況、立退料の申出は、切り離して計算するのではなく、全体として見られます。一つの要素だけから立退料の額や結論を機械的に決めることはできません。

もう一つ、立退料は、借主が明渡しで受ける損失のすべてを埋め合わせるものである必要はない、とされています。あくまで正当事由を補うための金であって、損失を丸ごと補償するものではない、という理解です。貸主の側から更新拒絶・解約申入れそのものの要件を確かめたいときは「更新拒絶と正当事由」で、正当事由の中身と期間の点を取り上げています。

一律の相場も決まった計算式もない

なぜ相場が出てこないのか。立退料の金額は、事案ごとの交渉で決まっていくもので、訴訟になれば、最終的には裁判所がその裁量で判断するものとされています。「賃料の◯か月分」「面積あたり◯円」といった、当てはめれば答えの出る計算式は、そもそも用意されていません。

同じような立地・広さの物件でも、次のような事情の組み合わせが違えば、結論は大きく変わります。

  • 貸主が建替えを急ぐ切迫度
  • 借主がそこで生活や営業を続けなければならない度合い
  • 建物の老朽化の程度
  • これまでの契約の経緯

ネットで見かける「相場」の数字は、あくまで幅のあるイメージにとどめておくのが安全です。

数字を先に見てしまうと、人はそれを基準点にして考えはじめます。貸主が最初に示した額でも、ネットで見かけた「相場」でも、いったん頭に入った金額は、そこが出発点になってしまいます。

けれど、その数字はあなたの契約や双方の事情とは切り離されたもので、基準にする理由はありません。目を向けるべきは、示された数字のほうではなく、これから見ていく考慮要素のほうです。

借家権の価値を、国税庁の財産評価基準で用いられる借地権割合・借家権割合を使って計算する方法(割合方式)が紹介されていることもあります。ただ、この計算で出た額を裁判所がそのまま採用しないこともあり、これも「相場」ではありません。一つの参考の物差しにすぎない、と受け止めてください。

金額を左右する考慮要素

では、何によって金額が動くのか。順序としては、まず立退料以外の事情から正当事由の有無・強さが検討され、金銭で補える場合に、その必要額が問題になります。

そのうえで、立退料を上げる方向にも下げる方向にも働く主な要素を挙げます。どれか一つで決まるわけではなく、これらを合わせた全体像で見られます。

考慮要素見られるポイント
貸主が建物を使う必要性建替えの必要性・緊急性、老朽化や耐震性、自己使用や再開発計画の具体性。他の事情と合わせて、必要な立退料の水準の評価に影響する
借主が建物を使う必要性そこでの生活や営業の基盤性、代替物件の見つけやすさ。貸主側の必要性と比較衡量される
建物の現況・築年数老朽化の程度、耐用年数の経過。建替えの必要性や借主の使用状況と合わせて考慮され、立退料の評価に影響し得る
契約の経過契約期間、賃料の水準、更新の有無、これまでのやり取り
移転にかかる費用引越費用、移転先の内装費、新たな保証金・敷金などの初期費用
賃料の差額移転後の賃料が現在より高くなる場合の、その差額分
営業への影響(店舗・事業用)移転に伴う休業補償、営業の減収、顧客の喪失、内装など投下資本の回収
貸主の申出額貸主がいくら払うと申し出ているか。裁判所が金額を決める際の重要な考慮要素になる

金額の出し方 三つの考え方

立退料の算定に決まった方法はなく、これも裁判所の裁量ですが、実務で使われている考え方は、おおむね次の三つに分けられます。

  • 一つ目は、移転にかかる実費と、移転に伴う損失を積み上げる考え方です(実費・損失方式)。引越費用や、移転先との賃料差額、店舗なら休業補償などを見積もります。この見積もりにあたっては、公共用地の取得に伴う損失補償の基準(損失補償基準細則)が参考にされることがありますが、立退料がこの基準に拘束されるわけではありません。あくまで一つの目安です。
  • 二つ目は、借家権の価値(借家権価格)を基礎にする考え方です(借家権方式)。ただし、更新が認められず終了する賃貸借について借家権があるかのように立退料を組み立てるのは筋が通らない、老朽化して耐用年数を過ぎた建物では借家権価格を基準にするのは相当でない、といった理由で、裁判所がこの方法を採らない場合もあります。
  • 三つ目は、借家権価格に移転の実費・損失を加える考え方です(併用方式)。

どの考え方をとるかは事案によりますし、いずれにしても、貸主がいくら払うと申し出ているか(申出額)が、金額を決める重要な材料になります。

店舗・事業用で加わる視点

同じ立退料でも、店舗や事務所など事業用になると、見るポイントが増えます。引越費用に加えて、移転で営業を休む間の休業補償、移転による売上の落ち込み、顧客が離れることの影響、内装など投下した費用の回収といった、営業にかかわる損失が考慮の対象になり得ます。

こうした店舗固有の損失や段取りは「店舗の立退きと営業補償」で、営業補償の考え方とあわせて掘り下げています。

もう一点、店舗の内装や設備をめぐっては、立退料と混同しやすい別の制度があります。

  • 造作買取請求(借地借家法33条)は、貸主の同意を得て付加し、または貸主から買い受けた独立性のある造作について、期間満了や解約申入れで賃貸借が終了するときに時価での買取りを請求できる制度です。ただし特約で排除でき、実際の契約で排除されていることもあります。
  • 有益費の償還(民法608条2項)は、建物の価値を増す費用を支出し、その増加が賃貸借の終了時に現存している場合の清算の話です。

内装・設備のすべてがこのどちらかに当てはまるわけではなく、排除特約の有無も含めて契約条項ごとに確認しておく必要があります。いずれも制度としては立退料とは別の請求権ですが、交渉ではまとめて清算されたり、損失の評価と重なったりすることがあるため、二重に数えないよう注意が要ります。

金額はどう決まっていくのか

進み方は事案によって違います。貸主による更新拒絶の通知または解約申入れがあり、その前後で当事者どうしが明渡しの条件と金額の折り合いを探る、というのが一つの形です。合意に至らなければ、訴訟のなかで、裁判所が正当事由の有無と、これを補う立退料の額を判断することがあります。この場合の立退料は、貸主の申出を前提に正当事由を補うものとして扱われ、通常は、相当額の支払と引き換えに明渡しを命じる形で示されます。

借主の側から立退料だけを取り出して請求できる権利ではありません。

貸主が解約を申し入れた後になって立退料を申し出たり、金額を増やしたりした場合でも、その額を考慮に入れて正当事由を判断してよい、とされています。ただし、後の申出によってはじめて正当事由が備わる場合には、解約の効力がいつ生じるか(そこから6か月の経過)が別途問題になります。訴訟では、「裁判所が相当と認める金額の支払と引換えに明け渡せ」という求め方も実務で用いられています。

立場によって、見ておくべき点は変わります。借主の側からすると、貸主が最初に提示した額が唯一の正解というわけではなく、考慮要素に照らして交渉の余地があります。貸主の側からすると、立退料を何も申し出ない、あるいは適正と考えられる額とかけ離れた低い額しか用意しない場合には、正当事由が認められず、明渡し自体が通らないこともあります。どちらの立場でも、金額の当たりをつける材料は、契約書・築年数・双方の使用状況、店舗なら営業の状況、というところで共通しています。

よくある質問

Q. 立退料は、必ずもらえる(払わなければならない)ものですか。

必ずではありません。立退料が問題になるのは、借主に落ち度のない更新拒絶・解約申入れの場面で、貸主側の正当事由が完全とはいえないときです。貸主側の必要性が十分に強ければ、立退料なしで明渡しが認められることもありますし、逆に借主が建物を使う必要性が強ければ、金額が高くなるだけでなく、そもそも明渡し自体が認められないこともあります。定額で当然に発生する、という性質のものではありません。

Q. 「賃料の◯か月分」で計算できますか。

できません。立退料に一律の相場や決まった計算式はなく、双方の事情、建物の状況、移転にかかる費用、営業への影響などを総合して、事案ごとに決まります。ネットで見かける相場の数字は幅のある目安にとどめ、実際には契約書と物件の状況を前提に、個別に見立てる必要があります。

弁護士の本音

金額の話の最後に、実務家としての本音を一つ。立退料は、法律の計算式だけでなく「時間の値段」で動く面があります。

訴訟までいった場合の審理期間は、争点、鑑定の有無、裁判所の進行などによって大きく異なります。金額のほうも、鑑定が行われた事案では、その結果——実際の取引の感覚とは別の物差しで出てくる数字——が交渉材料になることがあります(鑑定が常に行われるわけではなく、最後は諸事情の総合判断です)。

一方で、貸主が建替えや開発を予定している場合、明渡しが遅れることは、その分の収益機会を失うことを意味します。ここに「時間をお金で買う」という動機が生まれ、早期に明け渡してもらえることによる貸主側の利益が、交渉材料になる場合があります。ただし、交渉でまとまる額が判決で見込まれる水準を上回るとは限りません。

ただし、目の前のケースがその場面に当たるのかは、見極めがいります。そもそも貸主は何のために明渡しを求めているのか——更地にして売りたいのか、自分で建て替えて使いたいのか。計画はどれほど具体的で、どこまで本気か。これまでの交渉の経緯はどうか。時間はどちらの味方か。こうした力関係の読みは事案ごとで、実務では、まずここを読むところから交渉の組み立てが始まります。

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立退料と正当事由の関係は、立場によって見る向きが変わります。貸主として立退きを進める側は立退料・正当事由(貸主側)、立退きを求められた側は立退きを求められた方へ(借主側)で、それぞれの立場に即して扱っています。

主要な根拠

  • 更新拒絶・解約申入れに必要な正当事由と、その考慮要素としての財産上の給付(=立退料)の申出(借地借家法28条ほか26条・27条)… 借地借家法第28条(e-Gov法令検索) 第28条「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人……が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」
    立退料は、この「財産上の給付の申出」として、正当事由を判断する材料の一つに位置づけられています。
  • 立退料は単独では正当事由を満たさず、他の事情と補い合って正当事由の判断の基礎になること(最判昭和46年11月25日)… 裁判所 判例PDF 立退料は、他の事情と組み合わさって正当事由を支える材料の一つであり、それ単体で明渡しを基礎づけるものではない、とした判決です。金額の多寡だけで結論が決まるわけではありません。
  • 解約申入れ後にされた立退料の提供又は増額の申出も、当初の解約申入れの正当事由の判断で考慮できること(最判平成3年3月22日・現在の借地借家法28条に相当する旧借家法1条ノ2の事案)… 裁判所 判例PDF 「賃貸人が解約申入後に立退料等の金員の提供を申し出た場合又は解約申入時に申し出ていた右金員の増額を申し出た場合においても、右の提供又は増額に係る金員を参酌して当初の解約申入れの正当事由を判断することができる」とした判決です。なお同判決の事案では、契約は増額申出の時からではなく、当初の解約申入れから6か月の経過により終了するとされています。
  • 造作買取請求と特約による排除(借地借家法33条)… 借地借家法第33条(e-Gov法令検索) 造作買取請求とは、貸主の同意を得て取り付けた畳・建具などの造作について、契約終了時にその時価での買取りを貸主へ求められる制度です。ただし特約で排除でき、実際に排除されている契約もあります。
    第33条第1項「建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。」
  • 有益費の償還(民法608条2項)… 民法第608条(e-Gov法令検索) 第608条第2項「賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。」
    造作買取とは別の制度で、建物の価値の増加が賃貸借の終了時に現存している場合の清算です。

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  • 立退料の額を示された、または示そうとしているが、その額の根拠に自信が持てない
  • ネットの「相場」や賃料の何か月分といった数字が、自分のケースにあてはまるのか判断できない
  • 更新拒絶・解約申入れをめぐって、正当事由と立退料がどう関わるのかを知りたい
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こうした点が引っかかるようでしたら、契約書と物件の資料、これまでの経緯が分かるものをそろえて、ご連絡ください。貸主か借主かで見る向きは変わりますが、確認する材料は共通します。

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