COLUMN / 建物明渡し・立退き(貸主側)
建物明渡しの強制執行の流れと費用
明渡しを命じる判決や和解が出ても、借主が任意に出て行かないことがあります。そのとき残された手が、執行官による建物明渡しの強制執行です。申立てから明渡しの催告、断行までの流れと、予納金・実費・弁護士費用の見通しを、貸主・管理会社の立場から順に見ていきます。
賃料を滞納されたうえに、契約を解除して明渡しを求める裁判にも勝ちました。それでも借主が居座って出て行きません。ここまで来ると、任意の退去が得られないなかで明渡しを実現する手段が、建物明渡しの強制執行になります。
ただ、「勝訴=すぐ追い出せる」と思って進めると、執行文や送達の証明といった準備で足止めされたり、費用の見通しが立たなかったりします。
明渡しを命じる判決が出ても、貸主が自分の手で部屋を空けさせることはできません。強制的な明渡しは、執行官による手続で実現します。その中心は、執行官が「明渡しの催告」をして引渡し期限(原則として催告の日から1か月)を区切り、期限内に定めた断行日までに退去がなければ「断行」で明け渡させる、という流れです。判決が出た後でも、貸主が自分で鍵を替えたり荷物を運び出したりすることは、原則として許されません。
強制執行の工程と費用
強制執行は判決の後に始まる別の手続
明渡しを命じる判決や和解調書が出ることと、実際に借主を退去させられることは、別です。
判決は「明け渡しなさい」という命令ですが、借主が従わないときに国家の力でそれを実現する手続は、これとは別に用意されています。それが強制執行です(民事執行法168条1項)。
借主が任意に退去すれば、強制執行は要りません。訴訟の途中の和解や、判決後の話し合いで任意に明け渡され、執行まで至らずに終わることもあります。
まだ交渉や訴訟の前後で、任意退去に至るかどうかを見ている段階なら、そこまでの全体の道筋は「家賃滞納の賃借人が退去しないときの対応と明渡しの手順」でたどっています。この記事は、判決や和解を得た後の執行の工程に絞ります。
申立ての前にそろえる債務名義と執行文
強制執行を申し立てるには、まず「債務名義」が要ります。債務名義とは、強制執行の根拠になる公的な文書のことで、明渡しの場面では、確定した判決、仮執行宣言の付いた判決、裁判上の和解調書、即決和解(起訴前の和解)の調書などがこれにあたります。
お手元にあるのがどれなのかで、次の手順が変わります。判決なら確定したか仮執行宣言が付いているか、和解なら裁判上の和解調書か即決和解の調書か、まずそこを確かめてください。
強制執行に進むには、原則として、その債務名義に執行文(その債務名義で強制執行してよいという裁判所書記官等の付記)の付与を受けたうえで、判決などが相手方に送達されていることが必要です。
もっとも、執行文の要否は主に債務名義の種類によって変わります。なお、債務名義には、裁判所が電子的に作成する類型もあります。何をそろえればよいかは、申立て先の裁判所や弁護士に確かめておくとよいでしょう。
そのうえで、対象の建物を管轄する地方裁判所の執行官に対し、強制執行を申し立てます(民事執行法168条1項、2条)。申立ての際には、執行官の手数料や職務執行に要する費用の概算額を、あらかじめ納めます(予納。執行官法15条1項)。
納付の時期や方法は申立先の運用によりますから、執行官へ申し立てる日を決める前に、金額とあわせて裁判所に確かめて用意しておく必要があります。
明渡しの催告から断行までの流れ
申立てを受けた執行官は、いきなり荷物を運び出すわけではありません。通常は、次の順で進みます(明渡しの催告は法律上「することができる」とされている手続ですが、実務では通常行われます)。
- 執行官への申立て(予納金を納めます)
- 執行官が現地へ行き、強制執行を始められる状態であれば「明渡しの催告」をする(民事執行法168条の2第1項)
- 引渡し期限(原則として催告があった日から1か月を経過する日)が定まり、その枠のなかに断行日が決まる
- 断行日までに任意の退去がなければ、断行として執行官が占有を解き、建物を貸主に引き渡す
催告は、「引渡し期限」を定めて、借主に自主的な退去をうながす手続です。引渡し期限は、催告の後に占有する人が入れ替わった場合でも同じ申立てのまま執行できる、執行上の期限であり、実際に断行を行う日とは別のものです(同条2項)。
この期限は、裁判所の許可により延長されることもあります。執行官はこの期限のなかに実際に断行を行う日(断行日)を定め、その日までに借主が自分で出て行けば、断行に至らずに終わります。
催告をすると、執行官は、明渡しの催告をした旨・引渡し期限・占有の移転が禁止されている旨を、建物に公示書などを掲示して知らせます(同条3項)。あわせて、催告があった後は、借主は建物の占有を第三者に移してはならないという効果が生じます(同条5項)。断行の直前に借主が別の人を住まわせて執行を妨げる、という事態を防ぐための仕組みです。
そのため、催告後・引渡し期限までの間に占有が移っても、原則として、あらためて相手方を特定した債務名義や承継執行文を取り直すことなく、同じ申立てのまま新たな占有者に対して断行を進められます(同条6項)。もっとも、その占有者の側にも、明渡しの催告があったことを知らず、かつ債務者の占有を引き継いだ者でないことなどを理由に争う手段が用意されています(同条7項・9項)。
断行の当日に執行官がすること
定められた断行日までに任意の退去がなければ、その日に「断行」を行います。断行の当日、執行官は借主の占有を解いて、建物を貸主(債権者)に引き渡します(民事執行法168条1項)。このとき執行官には、次のことが認められています。
- 占有者を特定するために、建物内にいる人へ質問し、または文書の提示を求めること(同条2項)
- 建物に立ち入り、必要があれば施錠を解くこと(同条4項)
- 抵抗を受けるときは威力を用い、または警察上の援助を求めること(民事執行法6条1項)
実務では、鍵開けや家財の搬出は、貸主側が手配した解錠技術者や作業員(執行補助者)が、執行官の指揮のもとで執行手続の一環として行います。
なお、断行は、貸主またはその代理人が執行の場所に出頭したときに限ってできます(同条3項)。当日は貸主側の立会いが要る、ということです。
残置物(目的外動産)はどう扱われるか
断行のとき、建物の中に借主の家財道具が残っている場合があります。この明渡しの目的物でない動産(残置物)を、執行官はまず取り除いて、借主本人や、その代理人・同居の親族・従業員などで相当のわきまえのある人に引き渡します(民事執行法168条5項前段)。
その場で引き渡せないときは、最高裁判所規則の定めに従って売却することができ(同項後段)、引き渡しも売却もしなかった動産は、執行官が保管します(同条6項)。売却したときは、売得金から売却・保管の費用を差し引いた残りを供託し(同条8項)、保管にかかった費用は執行費用として扱われます(同条7項)。
残置物であっても、貸主が勝手に処分してよいわけではありません。所有権の放棄などが確認できないかぎり、借主(場合によっては第三者)の所有物であって、貸主のものになったわけではありませんから、無断で捨てたり運び出したりすれば、損害賠償などの問題を生じるおそれがあります。
廃棄などの処分も、執行の手続の枠内で、または借主との合意(適法な所有権の放棄など)によって進めるもので、貸主の一存で片づけてよいわけではありません。
独立して占有する人がいるとき
占有者をめぐって、もう一つ確かめておきたい場面があります。もともと独立した立場で建物を占有している別の人がいるときです。
債務名義の効力は、名前の挙がっている当事者のほか、一定の承継人や、その人のために建物を所持しているにすぎない人にも及ぶことがあります(民事執行法23条、民事訴訟法115条1項)。他方、自分の権原で独立して占有している人には通常及ばず、その人を退去させるには、その人を相手にした債務名義が別に必要になることがあります。
借家人や間借り人といった名前だけで決まるものではなく、誰がどの立場で占有しているかで扱いが変わるため、独立の占有者は初めから手続に取り込んでおくことになります。誰が占有しているのかは、訴訟を起こす前の段階で確かめておくべきところです。
予納金・実費・弁護士費用はいくらか
費用は、性質の異なる三つに分かれます。額があらかじめ決まっている予納金、事案ごとに変わる実費、そして弁護士に依頼する場合の弁護士費用です。
| 費用の種類 | 内容と性質 | 一次的な負担者 |
|---|---|---|
| 予納金 (執行官) | 執行官の手数料・費用にあてる前払い。東京地方裁判所では標準6万5000円程度(物件・相手方の数で加算)。余れば精算、不足すれば追納。裁判所により異なり、改定されることもあるため申立時に確認 | 申立てをする貸主が前払い |
| 実費 (執行補助者ほか) | 解錠、家財の搬出・運搬、保管など。部屋の広さ・残置物の量・立地で大きく変わり、金額は事案しだい | 貸主が立替え |
| 弁護士費用 | 申立て・当日立会い・相手方対応などの代理。事案により異なり、依頼前に見積りを確認。執行費用には原則含まれない | 依頼する貸主 |
予納金は、執行官の手数料や執行に要する費用にあてるため、申立ての際にあらかじめ納めるお金です。額は裁判所ごとに定めがあり、たとえば東京地方裁判所では、物件が一つ・相手方が一人の場合で6万5000円程度が標準とされ、物件や相手方の数が増えると加算される取扱いです。額は裁判所によって異なるうえ、改定されることもありますので、申立ての際に申立て先の裁判所へ確かめてください。予納金は前払いで、執行が終わって余りが出れば精算され、足りなければ追加を求められます。
これに対して、解錠技術者への支払いや、残された家財の搬出・運搬、執行の手続に伴う保管などにかかる費用は、事案ごとに大きく変わる実費です。ワンルームか家族向けの広い住戸か、残置物がどれだけあるか、建物の立地や搬出のしやすさによって、金額は相当に幅があります。一律の相場を示すのは難しいので、見通しを立てるには、現地の状況(間取り・残置物の量など)を前提にした個別の見積りが要ります。
このうち、予納金や執行に伴う実費といった「強制執行に必要な費用(執行費用)」は、法律上は借主(債務者)の負担とされています(民事執行法42条1項)。もっとも、これは最終的に借主へ請求できるという建前であって、貸主がいったん立て替えたお金を現実に回収できるかどうかは、相手の資力しだいです。
なお、弁護士費用は、この執行費用には原則として含まれず、貸主自身の負担になるのが基本です(相手方に損害として請求できるかは別の検討になります)。執行費用の額は、申立てにより裁判所書記官が定める手続(執行費用額確定処分)で確定させ、これをもとに回収を図ることになります。
期間の目安と間接強制
期間も、事案によって幅があります。もっとも、まったく見当がつかないわけではありません。引渡し期限が催告の日から1か月と決まっている以上、断行日は催告から1か月の枠のなかに入ります。全体の期間を決めるのは、次の二つです。
- 申立てから催告までにどれだけかかるか
- 断行日を作業の段取りと合わせられるか
申立てから明渡しの完了までにどれくらいかかるかは、相手方の対応、占有者の状況、残置物の量、執行官や作業日程の都合によって前後し、はっきりした期間をお約束できるものではありません。
なお、明渡しの強制執行は、執行官が直接に占有を移す方法(直接強制)が基本ですが、貸主の申立てがあれば、間接強制(一定の金銭の支払を命じて心理的に履行をうながす方法)によることも認められています(民事執行法173条1項)。
貸主が自分で片づけてはいけない理由
滞納され、裁判にも勝ったのに出て行かない。それでも、貸主が自分の判断で鍵を交換して閉め出したり、室内の荷物を運び出して処分したりすることは、原則として許されません。相手に滞納や居座りという非があっても同じです。
権利があるからといって、実力で自分の権利を実現すること(自力救済)は、原則として禁じられています。最高裁も、法律に定める手続によらずに実力で権利を実現することは許されないとしています(最高裁昭和40年12月7日判決)。ごく例外的な場合を除いて、明渡しは執行官による手続を通じて実現するのが筋であり、自分で片づけてしまうと、かえって損害賠償を求められたり、退去がこじれて長引いたりしかねません。
自分で鍵を替えてしまうと、借主の滞納や明渡義務が消えるわけではないのに、貸主の側にも損害賠償などの責任が生じ得る形になります。
明渡しの話に、貸主の行為の責任を問う話が上乗せされて、紛争が複雑になってしまうということです。
よくある質問
Q. 判決が確定すれば、あとは裁判所が自動的に追い出してくれるのですか。
いいえ。判決が出ただけでは、裁判所が自動的に退去させてくれるわけではありません。借主が退去に応じないときは、貸主の側から、執行文の付与や送達の証明など必要な書類や情報(何が必要かは債務名義の種類で変わることがあります)をそろえて、執行官に強制執行を申し立てる必要があります。申立てをして初めて、明渡しの催告・断行へと手続が進みます。
Q. かかった費用は、借主に請求できますか。
予納金の精算額や、搬出・保管などのうち強制執行に必要と認められる実費は、法律上、最終的には借主が負担すべき執行費用とされますので(民事執行法42条1項)、請求すること自体はできます(額は執行費用額確定処分で確定させ、支出した全額が当然に認められるわけではありません)。
- ただし、現実に回収できるかは相手の資力しだいで、滞納で明渡しに至る事案では取り戻せないこともあります。
- なお、弁護士費用は執行費用には原則として含まれず、貸主の負担になるのが基本です。
執行に進むかどうかは、費用が戻らない場合も含めて判断する必要があります。
Q. 室内に残された家具や家電は、こちらで捨ててしまってよいですか。
残置物であっても、所有権の放棄などが確認できないかぎり借主の所有物ですので、貸主が無断で処分すると、損害賠償を求められるおそれがあります。断行の際は、執行官が目的外の動産を取り除いて借主側に引き渡し、引き渡せないときは売却し、売却もしなかった物は保管する手続をとることになっています(民事執行法168条5項以下)。処分は、この手続の中で、または借主との合意によって進めてください。
おわりに
強制執行は、任意の退去が得られないときに、判決を得た貸主が明渡しを実現するための手段です。
ただ、勝訴がそのまま即日の明渡しにつながるわけではなく、相手の資力によっては、かけた費用が戻らないまま明渡しだけが実現することもあります。
だからこそ、判決が出た後でも自分の手で片づけようとせず、いま自分がどの段階にいて、次に何をそろえれば執行に進めるのかを見定めてから動くところに、余計な負担を避ける分かれ目があります。
主要な根拠
- 建物明渡しの強制執行は、執行官が債務者の占有を解いて債権者に取得させる方法で行うこと(民事執行法168条1項)… 民事執行法第168条(e-Gov法令検索)
判決は「明け渡しなさい」という命令、実際に退去させる手続はこれとは別、という区別のもとになる条文です。
第168条第1項「不動産等……の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。」 - 明渡しの催告と引渡し期限(原則として催告の日から1か月)(民事執行法168条の2)… 民事執行法第168条の2(e-Gov法令検索)
引渡し期限は「猶予期間」ではなく、断行を行える最終の期限です。断行日はこの期限のなかに定められます。
第168条の2第2項「引渡し期限……は、明渡しの催告があつた日から一月を経過する日とする。」 - 執行費用(強制執行に必要な費用)は債務者の負担とされること(民事執行法42条1項)… 民事執行法第42条(e-Gov法令検索)
対象は「強制執行の費用で必要なもの」に限られ、弁護士費用は原則として含まれません。実際に回収できるかは相手の資力しだいです。
第42条第1項「強制執行の費用で必要なもの(以下「執行費用」という。)は、債務者の負担とする。」 - 残された家財(目的外動産)は執行手続の中で引渡し・売却・保管の順に扱われること(民事執行法168条5項)… 民事執行法第168条第5項(e-Gov法令検索)
残置物は執行官がまず取り除いて借主側に引き渡し、引き渡せないときは規則に従い売却する、という順で扱われます。貸主が無断で処分してよいわけではありません。
第168条第5項「執行官は、……その目的物でない動産を取り除いて、債務者……に引き渡さなければならない。この場合において、その動産を……引き渡すことができないときは、執行官は、最高裁判所規則で定めるところにより、これを売却することができる。」 - 東京地方裁判所の執行官予納金の標準額(不動産明渡等事件の基本額6万5000円)… 東京地方裁判所 予納金額標準表(PDF)
裁判所ごとに定めがあり、裁判所により異なるため申立て先で確かめる必要があります。表の作業員日当・運搬・保管費用等はこの予納金に含まれません。
予納金額標準表「不動産明渡等事件(建物収去・退去を含む。)… 65,000円」(物件・相手方の数に応じて加算されます)
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判決の後も退去してもらえないとき
いまどの段階にあって、執行に進むには何が足りないのか。そこがご自身で描けているなら、無理に依頼される必要はありません。
引っかかりが残るのが、たとえば次のような場合です。早い段階で見通しを立てておくと、その後の判断が楽になります。
- 明渡しを命じる判決や和解が出たのに、借主が退去しない
- 執行文の付与や送達の証明など、何をそろえれば執行に進めるのか分からない
- 予納金や実費がどれくらいかかり、借主に請求できるのか見通したい
- 室内に残された家財(残置物)の扱いに困っている
気になる点があれば、債務名義(判決・和解調書など)と契約書、これまでの経緯を手元に、お声がけください。各段階の流れは建物明渡し・立退き(貸主側)のページとあわせてご説明します。
